子どもの命を守りたい

(1)交通安全へのお願い

子どもの命を守りたい―。子どもが巻き込まれる交通事故が後を絶たない。昨年から始めた「ひろしま交通事故防止キャンペーン」はことしも、事故を減らすための取り組みや交通ルールの周知徹底を紙面やイベントを通して訴えていく。昨年の広島県内の交通事故件数は、1万2479件、うち高校生以下の事故は891件。交通事故は、当事者にも家族にも大きな苦しみを与える。広島市出身のタレント風見しんごさん(52)は、2007年1月、登校中の事故で当時10歳だったまな娘・えみるちゃんを亡くした。残された家族の悲しみは消えることはない。事故の怖さ、訴えを聞いた。
(迫佳恵)

風見しんごさんインタビュー

交通事故の悲惨さと交通安全の大切さを訴える風見さん

かざみ・しんご 広島市出身。著書「えみるの赤いランドセル 亡き娘との恩愛の記」で、娘との思い出や交通安全への願いをつづった。テレビやラジオ、舞台などで活躍し、NHKラジオ第1「午後のまりやーじゅ・水曜」(毎週水曜日午後1時5分~同4時55分)のパーソナリティーや「広島東洋カープ公認応援隊員」を務める。広島の被爆証員を続けた故沼田鈴子さんの生涯を描いた映画「アオギリにたくして」 (全国順次公開中)に出演。http://profile/ameba/jp/gr000043
家族4人でグアム旅行。えみるちゃん(右端)は妹をとくにかわいがり、家族思いの優しい子だった
感謝と愛の気持ちを惜しみなく表現しているえみるちゃんの手紙。「チチ」「ハハ」と呼んでいた
父の日に、えみるちゃんから送られた手作りレリーフ

親子で何度も通学路を点検してください 事故を経験して分かる、では遅いのです

交通事故は、何の前触れもなく、突然襲いかかってきます。被害者にも加害者にもなる。1分前に笑顔で生きている人が、突然亡くなるんですよ。いとも簡単に命を奪われるんですよ。毎日毎日、こんなにつらいことが、今日もどこかで起きているなんて、本当に怖いことなんです。

いつも通りの朝

事故が起きた日の朝は、いつも通りの1日の始まりでした。玄関で元気よく「行ってきます」と言って出て行きました。それが最後の笑顔になるとは誰も思わずに。事故は、家を出て1分もたたないうちに起きました。近所の人が知らせてくれ、僕と妻が現場に駆け付けました。僕は「肘をすりむいたくらいかな。最悪、骨折しているのかな。あいつのことだから大げさに泣いているんだろう。早く行って抱きしめてやらなくちゃ」くらいに思っていたのです。
 自宅から100㍍進んで角を曲がるとえみるの姿はありません。泣き声もない。でも通行人や周りの人が殺気立っているというか。トラックが1台止まっていたので、トラックの下をのぞき込むと、タイヤがえみるの腰に乗り上げたままで、あり得ない方向にへしゃげた足が見えました。パニックですよ。トラックを持ち上げようとしてもびくともしない。娘のそばで頑張れと叫びながら救い出そうとする妻の姿。その光景は一生忘れられないし、今でも寝るとき、最初に浮かぶのはその場面です。
 周囲の協力もあってトラックを持ち上げ、ようやく娘を出しました。頭蓋骨を骨折していたので顔は腫れ、うっすら開いた目は出血で瞳の中まで真っ赤に。地獄でした。病院に運ばれ、瀕死(ひんし)の状態でもまだ生きようと心臓は動いていました。でも事故から1時間25分後、息を引き取りました。
 事故の後、僕も妻も生きていくのがつらかった。ひょっこり生きて帰ってくるのではと思い込んだ時期もありました。心に大きな穴があき、時間がたてば埋まると思ったけれど、どうやっても埋まらない。あいた心とうまく付き合う方法を見つけていくしかないのです。今もえみるの部屋はそのままで、毎日家族とえみるの話をします。娘が最後まで生きようとしたから、僕たちが生きることを投げやりにしては申し訳ない。落ち込んだままの僕を娘が見たらどう思うか、娘に恥じないように生きようと思うようにしています。
 トラックは交差点を右折する際、前方を十分に注意せず安全確認を怠ったまま走行し、青信号の横断歩道を渡っていたえみるをはねたそうです。全国でも、車が通学途中の子どもの列に突っ込むなど、子どもが巻き込まれる事故を聞くと悲しくなります。交通ルールは大人が決めて、大人が子どもに教えているはずなのに、そのルールを破った大人によって子どもの命が奪われる。こんな理不尽なことはないでしょう。

自分に限って

事故を経験する前は「自分に限って、家族に限って事故に遭うはずがない」と根拠のない自信を持っていました。事故と無縁であればあるほど気は緩みます。駄目な親だったと思う。僕みたいな思いを誰にも経験してほしくないからこそ言います。親子で何度も通学路を点検してください。子どもはただ注意しても聞きません。道路に出て、具体的に危ない場所を確認させる。繰り返し目で見て、言葉で聞かせて理解させてやってください。
 経験して分かる、では遅いのです。事故を減らす特効薬はないので、さまざまなところで、交通安全の意識を繰り返し広げていくことが必要だと思います。だから、中国新聞社の子どもを守る交通安全企画はありがたいです。一瞬でもいいから、交通安全について考えて、思いをつなげてほしい。