子どもの安全を守ろう

(4)自動車学校と連携した取り組み

子どもを交通事故から守るための事例やアイデアを紹介する「ひろしま交通事故防止キャンペーン」。第4回のテーマは「自動車学校と連携した取り組み」。福山市の御幸学区交通安全自治会が福山市立御幸小や芦田川自動車学校と連携し、24年間続けている親子交通安全教室の取り組みについて、同自治会長で同自動車学校職員の松本晴男さん(65)に聞きました。

福山市の御幸学区交通安全自治会長
松本 晴男さんに聞く

御幸学区交通安全自治会長 松本 晴男

交通ルール 親子で学ぶ機会が大切

交通環境をリアルに再現

御幸学区交通安全自治会はどんな組織で、親子交通安全教室はなぜ始まったのですか。

学区内にある26の町内会から、交通担当が1~3人ずつ参加して活動しています。交通事故が起こりやすい危険箇所を発見し、カーブミラーの設置を行政に働き掛けたり、警察署や交通安全協会と連携して交通安全の教室や啓発イベントを開いたりするほか、年4回ある全国交通安全運動にも協力しています。
親子交通安全教室は1993年に始めました。当時、児童が通学路を広がって歩く姿が目に付いたため、何か対策ができないかと考えたのがきっかけです。私自身が芦田川自動車学校の職員でもあり、教習コースを使った交通安全教室を思い付きました。御幸小の児童と保護者を対象に、毎年6月に開催。福山北警察署をはじめ、PTAや子ども会の協力も得て、現在まで24回実施し、毎回300人前後が参加しています。

教室の詳しい内容を教えてください。

主に横断歩行や自転車の走り方を指導しています。教習コースには交差点や急カーブのほか、信号機と踏切もあるため、リアルな安全指導ができるのが特徴です。横断歩道は既設の4カ所に加え、特設を1カ所増やしています。
例えば歩行の指導では、保護者を含む10人前後のグループに分かれ、1列になってコースを歩きます。先頭と最後尾は高学年の児童が歩き、その間の低学年児童が列をはみ出さないよう注意します。横断歩道では必ず立ち止まり、左右を確認した上で手を上げて渡るよう指導。コース上には、PTAや子ども会の保護者が自動車を走らせ、実際の環境に近づけます。「横断歩道が絶対に安全とは限らない」という意識を植え付けるため、自動車を故意に横断歩道の近くに止めるなど、危険な状況もシミュレーションします。交差点では信号が青になっても、右折や左折の車が通り過ぎるまで待って横断歩道を渡ることや、踏切での左右確認を徹底します。

実演や実験で危険を体感

自転車の安全指導はどうですか。

「自転車は車道通行が原則、歩道は例外」と説明した上で、持参した自転車で児童にコースを走ってもらいます。道路では1列で左端をゆっくり走り、歩道では歩行者優先で車道寄りを徐行するようアドバイス。横断歩道に自転車横断帯があればそのまま通行し、ない場合はいったん降りて押して渡るといった基本も実践しています。
注意を喚起するために悪い例も実演します。例えば、職員が自転車で一時停止や徐行をしないまま交差点に進入し、危険な状況を再現。傘を差したままの片手運転ではブレーキをかけにくいことや、2人乗りの危なさも教えます。

指導の際に特に気を付けていることは何でしょう。

児童一人一人が危険を察知できる判断力をどう養うかを重視し、職員が運転する自動車を使った実験を幾つか行います。一つは急ブレーキ。時速50kmで走らせ、ある地点で急ブレーキをかけると、どこで止まるかを見学します。この場合、ブレーキが効き始め、停止するまでの距離は32mになります。前方に置いた段ボール箱に自動車が突っ込む様子を目の当たりにすることで、児童らは道路への飛び出しがいかに危険かを肌で感じます。同じ速度で走っても大型車は速く、小型車は遅く感じるといった錯覚や、トラックの死角を体感する実験なども行っています。

24年間続けた手応えや課題は。

児童だけでなく保護者と一緒に指導を受けることで、家庭の中で交通安全について話し合う機会が増え、安全への意識が高まったと思います。参加をきっかけに、家族で一緒に通学路を歩き、危険な場所を確認することも増えているようです。過去に参加した児童が成長して親になり、今度は保護者として子どもと一緒に教室に参加するケースもあり、とてもうれしく思っています。
御幸町は宅地開発が進み、御幸小の児童は千人近くに膨れ上がっています。幸いここ数年は、登下校時に交通事故に遭った児童はいません。皆が列を守って歩くようになったのが大きな要因です。
課題は放課後にいったん帰宅した後、外出した時の交通安全対策です。遊びに行く際などは夢中になって、左右確認をせずに道路に飛び出してしまう児童がいます。学区内の道路は入り組んでおり、細い道から急に大きな道路につながる箇所や見通しの悪い場所があります。危険箇所付近に「児童注意」との路面標示を設け、運転者の注意を促すといった対策を行政と進めています。

子どもの交通事故をなくすには何が大切ですか。

家庭での日頃の教育が基本です。その上で学校やPTA、子ども会、町内会、行政が連携し、交通ルール習得などの指導を繰り返していくといった地域ぐるみの地道な取り組みが大切ではないでしょうか。自動車学校も地域の安全センターとして、これからも支援を続け、交通事故のない町づくりに貢献していきたいと考えています。

企画・制作 中国新聞備後本社、事業情報センター