トップページ特集ドライビングシミュレーターを使った研究 福山大工学部の内田博志教授に聞く

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子どもの安全を守ろう

自動車の安全技術 取り組み事例紹介

子どもを事故から守るさまざまな活動を紹介する「ひろしま交通事故防止キャンペーン」。第4回のテーマは「交通安全技術の研究」です。福山大(福山市)は2015年秋から、広島県警と共同で 事故多発地点の対策や事故防止の研究に取り組んでいます。共同研究のメンバーであり、ドライビングシミュレーターを使った交通安全技術の開発に携わる同大工学部機械システム工学科の内田博志教授に研究内容などを聞きました。

福山大工学部の内田博志教授に聞く

交通事故減少へ 新技術でサポート

ドライビングシミュレーターとは、どのような装置ですか。
コンピューターグラフィック(CG)を使って運転席から見える景色や歩行者をスクリーンに映し、試験台に備えたハンドル、アクセル、ブレーキなどを操作することで、運転状況をシミュレートする装置です。自動車事故につながる危険な状況を映像化。何度でも繰り返し実験できるため、交通安全の研究には欠かせません。道路形状や周辺環境、昼夜の時間設定や気象条件も自由に変更でき、さまざまなデータを得られるといったメリットもあります。

ドライビングシミュレーターを使った実験を学生と行う内田教授(右から2人目)

事故多発地点を分析

装置を用いてどのような研究に取り組んでいますか。
福山大の地元である福山市西部地区は、追突事故の割合が人身事故の約50%と、全国に比べて多いのが特徴です。 理由には、道路形状やドライバーの運転傾向が関係していると考えられます。そこで、西部地区で交通事故が特に多い神島橋西詰交差点(福山市神島町)の道路や周辺の景観をドライビングシミュレーターで忠実に再現して分析。学生らが試験台で運転シミュレートしたところ、交差点にカーブや勾配があり、見通しが悪いこと、交差点通過時にドライバーが車線を間違えやすいことなどが分かりました。
実験では、交差点の車線をオレンジや緑などで色分けした場合の調査も実施(図1)。走行車線のミスは減少するといった結果が出ました。このほか、カーブの曲がり具合や道路脇の防護壁の高さなどを変えながら、運転ミスがどう変化するかの実験を行っています。

ドライバーが事故を起こす原因は。
運転ミスの大きな原因は、ドライバーが運転中にうっかりしたり、ぼんやりしたり、運転以外のものに注意を取られる状態 「ドライバーデストラクション」にあります。たとえ眠気や疲労がなくても、注意状態が低下し、運転ミスが発生するケースは少なくありません。
ドライビングシミュレーターでは、センサーなどをドライバーの指に装着し、脈拍や体温、発汗量などの生体量を計測して、運転状況や注意状況を推定することができます(図2)。
例えば、シミュレーターで前走車や急カーブを出現させるなど危険状況をつくり出すと、ドライバーの脈圧が下がり、皮膚電気抵抗が増加するなど、集中力や注意力が一時的に高まることが分かっています。
こうした実験をさらに発展させ、ドライバーがイライラしていないか、ぼんやりしていないかを判定できる計測装置の開発につなげるのが目標です。実現すれば、自動車の走行中にドライバーの心理や生体状況を判断して、注意力が低下した際に自動的に警告を与えるといったシステムも作れるかもしれません。

運転訓練装置も開発

交通事故を減らすために何が必要でしょうか。
広島県警のデータでは、広島市内では右左折時の自転車巻き込みや交差点での追突事故が多く、福山市では、直線道路でスピードの出し過ぎによる追突事故が目立ちます。交通事故は、車のトラブルや道路の状況、天候などの要因に人的ミスが重なって起こります。 人的ミスの主因は、状況判断の誤りや思い込みです。交差点などで「対向車は止まってくれるだろう」と、自分にとって有利に考えず、「対向車や歩行者が飛び出してくるかもしれない」と注意を怠らないよう心掛けるべきです。
人的ミスを防ぐ手段の一つとして、研究室ではドライビングシミュレーターによる運転訓練システムの開発も進めています。停車中のバスの陰から子どもが飛び出すなど、さまざまな「ヒヤリハット」シーンを盛り込み、危険な状況を疑似体験できる内容にする予定です(図3)。こうしたシステムは自動車教習所などにありますが、実在する道路の危険個所を再現するなど、リアルで実効性のあるプログラムを目指しています。

子どもを交通事故から守る方法は。
広島県では、2015年までの4年間で10歳未満の子どもが巻き込まれた交通事故(軽傷以上)が約900件あり、半分以上は「道路の横断中」によるものです。時間帯では午後3〜5時の下校時刻に集中しています。事故防止の基本は左右確認などの交通マナーの周知徹底です。その上で、通学路を再現した歩行者用のシミュレーターを開発できれば、交通安全教育に生かせるかもしれません。
最近は、高齢ドライバーによる重大事故が相次ぎ、子どもが命を奪われるケースもありました。加齢による視力や筋力など身体能力の変化や注意力の衰えが運転にどんな影響を与えるのかを分析し、事故を防ぐ手立てを考えることも今後のテーマです。高齢者を含むあらゆる世代のドライバーが安心して楽に運転できる交通システムの在り方を検討していきます。

うちだ・ひろし 1957年尾道市生まれ。80年岡山大工学部卒。82年岡山大大学院工学研究科生産機械工学専攻修士課程修了。マツダに入社し、技術研究所などに勤務。2012年東京工業大大学院理工学研究科機械物理工学専攻博士後期課程修了。14年から現職。


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